神戸に帰省していたせいで、一週間稽古をしなかった。帰ってきて、さすがになまってるなと自分でも感じた。ところが、復帰して2、3日後に少し変化が見られた。少し楽になったのだ。鼓の音が出るようになった。笛は未だに苦しいけれど、頭で考えていない時は比較的楽に吹ける。謡の声が動かせるようになってきた。これはどうしたことだろう? やっとだんだん「力が抜けて」きたのかもしれない。
私にとって、能の一番のパラドックスは「やろうとしない」ことの美徳である。一生懸命そのものを把握して完成させるというよりも、「形をかりて、心でみて、体で感じて」そこに素のまま或ること。もちろん、全てを尽くして準備する事は大事ですが、うまくやろうとすればするほど、能は私から逃げていってしまうのです。脳をフルに活用しながら、ある時点を過ぎると脳を一切使わないモードに切り替える。これはものすごい訓練だと今更ながらに感心する次第です。でも考えてみれば、これは全てのパフォーマンスの基本ですね。
何でも、キンキンになって一生懸命にやろうとする私は、つい最近になってから、「力を抜く」ことを練習し始めています。これはいろんな人からいろんな状況で指摘されていることで、今まで「がんばる」ことの美徳を信じさせられて生きてきた私にとってはとても難しい課題であります。でも、最近はだんだん、「がんばる」ことは自己満足にすぎないのかなと思うようになりました。だからがんばってやったパフォーマンス、自己が満足している時は観客は感動が薄いのでしょう。努力を怠らず、しかし結果を期待せずに一足一音を疎かにせず、力を抜くことを続けていきたいと思います。